1)マンション建替え円滑化法とは

◇マンション建替え円滑化法の制定時

2002年の区分所有法の改正と同じ年に成立した法律で、当時は「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(以下、改正前の現行法は「円滑化法」といいます。)という名称の法律でした。

制定当時の円滑化法は、マンション内で「建替え」についての合意形成をしたあとに、再開発で使われている「権利変換手法」を利用して建替えを進めるための手続きについて規定した法律でした。区分所有法には「建替え決議」と決議に賛成しなかった区分所有者に対する催告と売渡請求の手続きまでは規定されていますが、その後、どのようにして建替えを実現すべきかの手続きまでは規定されていません。そのため、たとえば建替えに区分所有者全員が賛成したとしても、その後の手続きは契約で進めるときは、建替えに参加する区分所有者全員との契約が必要となります。しかしながら、仮に区分所有者全員が建替えに同意しているとしても、建替えを進めるために契約をするとなるとその手続きは簡単なものではありません。実際に兵庫県南部地震における被災マンションの建替えに際してこの点が明らかになったことなども、円滑化法の立法の大きな理由といわれています。

なお、円滑化法で建替えを進める時の手続きについては、「マンション建替組合」(以下「建替組合」といいます)を設立して組合が事業を施行する手法と、区分所有者全員で「個人施行者」を選定して、その個人施行者が事業を施行する手法があります。このうち、実際にはほとんどが建替組合が事業を施行しているため、以下ではこの手法について簡単に解説させていただきます。

2)円滑化法による建替えの手続き

建替組合は、建替え参加者の5人以上が「定款」と「事業計画」を準備したうえで、建替えに参加する区分所有者と持分の4分の3の同意を得て、都道府県知事等(ほとんどが市区長なので、以下では「市区長」と表現します)の許可を受けて設立します。実際の手続きでは、事業計画の縦覧や意見書の募集等が必要ですが、ここではこの点について詳細の説明は割愛させていただきます。

 建替組合が設立されると、その後組合内部で建替えを進めるための具体的な活動をしたうえで、「権利変換計画」を作成します。権利変換計画とは、再建後のマンションの内容とともに、再建後のマンションを取得する組合員については既存の権利評価額とそれぞれが取得する部屋及びその部屋の取得をするために要する費用を示し、また再建後のマンションの取得を希望しない組合員については既存の権利評価を示したものとなります。

 区分所有者が建替え決議等により、建替えの意思決定をしたあと、民法の手続きで事業を進めようとすると建替えに参加する区分所有者全員との契約で進めることになるのですが、円滑化法の権利変換計画では、組合の総会決議と審査委員の過半数の同意を得たうえで、市区長に申請を提出し、市区長が認可により進めることができ、権利変換期日に古い権利が消滅し、再建後のマンションの権利が誕生します。すなわち、契約ではなく、組合の決議と行政の認可で建替えを進めることができるようになっています。

以上の手続きについて簡単なフローで示すと図1のようになります。

図1 マンション建替えのフロー

3)マンション敷地売却について

以上のように、円滑化法は、建替え決議等により建替えをすることが決まったマンションについて、決議等の意思決定をした後に、「権利変換手法」を使って建替えを進めるための手続きについて規定した「事業法」でした。

ところが、高経年マンションの数が増加するなかで、「建替え」だけでは再生のニーズに対応できないので、「売却」という選択肢も設けるべきではないかという要請に対応するために、2014年にマンション敷地売却制度が円滑化法の中で新たに規定されました。本来であれば、区分所有法の改正で売却についての決議の制度を設けるべきだったと思いますが、2014年に円滑化法にマンション敷地売却制度が定められることとなりました。

具体的には、決議後の手続きだけでなく、マンション敷地売却については、「決議」も円滑化法で定めることとなったのですが、区分所有法ではなく事業法である円滑化法の規定であるため、マンション敷地売却決議を行うために一定の制約が付されることとなりました。具体的には、耐震性に問題が有るマンションで、特定行政庁から「要除却認定」を受けたマンションについてのみ、マンション敷地売却決議の対象となるとするものでした(ちなみに、この改正で建替えの進め方以外に売却の規定が入ったことで、法律の名称が

「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」となりました。)。

以上の内容をまとめると、建替えについては区分所有法の定めにより決議をしたうえで、その後の手続きについては任意の契約によるものと、円滑化法による手続きで進めるケースがあります。その一方で、マンション敷地売却については要除却認定やマンション敷地売却決議についても円滑化法に規定されるため、手続きが極めて分かりにくい制度となっていました。

この手続きの概要は図2のとおりで、左側がマンション敷地売却のフローを、中央が円滑化法の組合施行方式で建替えを進める時のフローを、また右側が任意の手続きで建替えを進める場合のフローを示しています(国土交通省の資料による)。

図2

その後、2020年の改正で、耐震性に問題があるマンション以外に、火災の際の安全性に問題が有るものや、外壁の剥落等により周辺に危険を及ぼすおそれのあるマンションで、特定行政庁から特定要除却認定を受けたものまで、マンション敷地売却の対象が広がりました。

さらに、2022年の改正で、団地の敷地分割に係る規定が追加され今日に至っています。

円滑化法は、建替えや売却等について、契約ではなく、組合の決議と行政の許認可で進めるための手続きを定める事業法であるべきであり、建替えや売却等の決議は、区分所有法で規定すべきだと思います。しかしながら、区分所有法の改正のハードルが高いなかで、時代の要請に合わせて売却や団地敷地分割の仕組みを円滑化法で取り入れることになったため、「特定要除却認定」等の仕組みが必要となったほか、区分所有法と円滑化法の境目がわかりにくくなってしまったようにも思えます。

4)円滑化法の評価

建替えについては、円滑化法が制定されるまでは、ほとんどが任意の契約による手法の一つである「等価交換手法」の手続きで事業を進めていましたが、前述のように、任意の契約で手続きを進めるときは、建替え参加者全員との契約が必要であることがネックとなっていました。しかしながら、円滑化法が制定され、その手続きが周知されるに従い任意の契約で事業を進める事例は減少し、今日ではほとんどが円滑化法の手続きを採用しています(図3参照)。

たとえば、2015年から2024年までの10年間で「マンション建替円滑化法によらない建替え」は157件→171件と14件の増加に過ぎないのに対して、「マンション建替え円滑化法による建替え」は62件→126件と64件の増加となっています。また、マンション敷地売却も2024年時点で11件となっています。

図3

一方で、現状の円滑化法には課題もあります。

その第一は、これまで述べてきたようにマンション敷地売却の手続きの対象となるマンションに制約がある点です。高経年マンションが増える中で、マンションの終活の手続きについて「売却」の選択肢の拡充は必須と思われるためです。

また、建替えの際に権利変換の対象となるのは、マンションとその敷地に限定されている点も建替えを進める際のハードルとなっています。すなわち、隣接地を含めた建替えをするときは、隣接地所有者は権利変換の対象とできず補償金しか交付されません。すなわち、隣接地所有者は隣のマンションが建替えるときに土地を建替組合に売ることしかできません。

更に、借地権マンションの建替えに際して、地主が土地を提供して建替え後は所有権化を希望するケースもあるのですが、円滑化法では既存の敷地利用権しか権利変換の対象とならないので、等価交換手法でなければこのニーズに対応できません。

そのほか、「被災マンションの再建等の特別措置法」(以下、「被災マンション法」といいます。)により再建や売却の決議をしたマンションは、円滑化法でその後の事業を進めることができません(被災マンション法については、次回、説明をさせていただきます。)。

 以上のようなことから、円滑化法についても、より使いやすくなる改定が期待されていました。

「マンションの終活」について もっと詳しく知りたい方はこちら

マンション再生・管理についてお悩みの方

2000年暮れから四半世紀以上にわたり数多くのマンション建替えや敷地売却の実務に携わった経験と、この過程を通じて知り得た管理や規約についての知見により、マンション再生はもとより管理について必要なコンサルティングをさせていただきます。

コラム一覧へ