1.はじめに
内閣府の国民経済計算年次推計によると、令和4年(2022年)の総資産は12,649兆円となっています。因みに同じ年における土地価格は1,309兆円ですから、国富に占める土地の割合は10%強となります。なお、図1に示すように、国富は平成14年(2012年)くらいまでは概ね横ばいの状態でしたが、その後は拡大を続けており、平成14年と比較すると令和4年は概ね1.4倍となっていますが、土地は1.14倍に過ぎないため、国富に占める土地の割合は減少している状況です(なお、1994年の土地評価の合計は1996兆円でしたので、2022年時点の評価は1994年時点の評価の2/3に過ぎない状態となります。)。

もっとも、大都市圏とその他の地方では、地価を取り巻く状況も大きく異なります。国土交通省の公表データによると三大都市圏の平均地価は、リーマンショック前とコロナ前及びコロナ後において顕著な回復をしていることが確認できます(図2参照)。これに対して地方圏の平均地価は、それぞれの時期に回復している点は確認できるものの、三大都市圏と比較すると回復の度合いは緩やかです(図3参照)。
この点に加えて、バブル期の地価の上昇→リーマンショック前の地価の上昇→コロナ前後の地価の上昇を比較すると、三大都市圏の上昇率に対する地方圏の上昇率はより低くなっているように思われます。人口減少社会の中で、バブル前のように全国一律で地価が上昇するのではなく、地価も景気動向により上下するようになっていることに加え、人気の地区で地価が上昇していても、不人気な場所では上昇しないどころか下落を続けるようになっていると考えるべきです。
土地の相続を考えるときは、こうした世の中の流れも理解しながら対策を考える必要があります。


2.土地の組替えに乗り遅れてしまった事例
ここで、私の経験談についてお話しします。
今から20年程前の、平成不況の最中に、東京50キロ圏の立地で、駅近くに土地を持つ地主さんから「土地の活用」の相談を受けたことがあります。このとき、私は以下の三つの提案をしました。
- 土地を全て処分して、東京都内の一等地に買換え、その場所で活用の検討をする
- 土地の8割を処分し、その売却益で残った土地に賃貸住宅を建築する
- 定期借地権付き一戸建て住宅の分譲をする
駅前立地とは言っても、周辺の賃貸住宅も平均すると20%程度は空いていましたし、駐車場の空きは更に多い状態だったものの、周辺と比較すると利便性の高い土地ですから一戸建て住宅のニーズは考えられたので、「売れるうちに住宅用地として土地を全て売却して、都内の良い土地に買換える」ことが最良の選択肢であると考えました。また、土地の全部売却が難しいのであれば、2を選択すれば、少なくとも借入金なしで賃貸住宅を建築する計画でしたから、空室率が20%を超えていたとしても一定の収入は確保できていたと思います。
また、どうしても土地を手放したくないのであれば「ⅲの選択肢しかない」と説得をしたのですが、結局は判断をすることができず、いずれの選択肢も採用してもらうことはできませんでした。 その理由ですが、「ご先祖から相続した土地を一部でも売却してしまうと、周辺からいろいろと言われる」として、1と2の選択肢には賛同をいただくことができませんでした。また、3についても「借地は抵抗がある」ということで、結局は私からの提案は全て不採用となった次第です。
その後、この地主さんとお会いすることはなかったので、最終的にどうされたのかは不明ですが、この時点で1の選択肢を採用されていたら、取得後の土地で有効な活用は可能だったと思いますし、地価も上昇していたはずです。「たられば」の話ではありますが、惜しいチャンスを逃したと思います。
3.立地が良くても有効活用が困難な土地の問題
都市部における土地は、その土地上で建築可能な建物によって価値が変わる可能性があります。その典型的な例として「容積率」を挙げることができます。
大都市部の特に商業地など高度利用が可能な地区では、消化可能な容積率により土地の評価が変わる傾向があります。不動産業界では容積率100%を「一種」と呼び、地価について坪当りの単価を「一種〇〇万円」と表現することがあります。たとえば、一種100万円のエリアで容積率が400%だとすると、四種になるので坪単価は400万円となります(注)。
不動産の二極化が進んでいる昨今ですから、特に地方都市等では必ずしも容積率のフル活用が土地の最有効利用になるわけではありません。しかしながら、その場所にあった有効活用が可能であるか否かで土地の価値は大きく変わることはご理解いただけるのではないでしょうか。
現実に、土地の相続放棄は近年大きな課題であるといわれていて、相続未登記等により所有者がわからない土地の面積は九州の面積に匹敵するそうですが、相続人が相続したくないと考えていることはその主たる理由ではないでしょうか。
このようなことから、令和時代の土地相続を考える場面では、相続させる不動産について客観的に評価する必要があると思われます。特に相続対策で土地の活用を検討する場面では、土地所有者本人だけでなく、活用後の土地を相続する者も含めた検討が不可欠でしょう。すなわち、「相続税対策」を目的として無計画にアパートを建築する検討などは慎重に行うべきだと筆者は考えています。
なお、土地の価値については、次のような視点から判断をすべきです。
- その土地の将来性(人口動態や産業動向等から判断)
- 優良地の場合は建築の視点(その土地にどのような建物を建築できるか)と不動産実務の視点
そもそも、人口が減り続け、産業基盤そのものに問題がある立地の土地は、価値が目減りし続けることが想定されます。そうであるとすれば、買い手がいるうちに売却をするという判断も必要と思われます。
次に、優良地については、特に土地上にどのような建築ができるかで価値は大きく変わる可能性があります。加えて、不動産実務の視点からの検証をすると、より確度の高い判断ができるのではないでしょうか。
4.まとめ
社会環境が大きく変わる中で、土地相続を考える際は、まずは土地の価値を冷静に判断したうえで、その土地に応じた選択をする必要があります。その際には、前述のように「家族で考える」必要がありますし、必要に応じて専門家に相談をすることも視野に入れておくべきでしょう。
ただし、「専門家」と言っても様々です。次回は、「土地相続を誰に相談すべきか」について考えてみましょう。
(注) 大都市部の一等地等地価が極端に高いエリアを除くとこの「一種〇〇万円」という考え方は通用しなくなっている可能性もあります
土地相続・分割でお困りの方
都市部の土地は、「その土地上に建築可能な建物」により評価が大きく変わることがありま必要ですが、これに加えて建築や不動産実務の視点から検討も不可欠となります。ハウスメーカーとデベロッパーで30年以上にわたりこの問題に取り組んできた経験から、必要なアドバイスをさせていただきます。