区分所有法はどう変わったか(2)~「総会の招集と決議」

総会に関する規定が大きく変わった

前稿で述べたようにマンションの管理について考えるとき、今回の法改正でおさえておくべきポイントの一つに、「総会の招集と決議に関する事項」を挙げることができます。その概要について簡単に述べると、次のようになります。

◇総会の招集について

・規約で期間を「伸縮できる」とされていたものが「伸長できる」に変わったこと

・総会の招集に際して、すべての議案について「議案の要領」を示さなければいけなくなったこと

◇決議について

   ・所在不明区分所有者を集会集対象から外すこと

   ・再生に関する事項を除き、集会出席者で決議をすることが可能となること

 なお、これらの点について理解するには、現行の区分所有法との比較が必要となります。そこで、まずは既存の区分所有法における集会の決議について述べたうえで、変更点について改めて考えてみましょう。

前述のように、2026年改正前の区分所有法では、総会の招集期間を伸縮できるとされているので、改正前の標準管理規約では、総会は、「少なくとも会議を開く日の2週間前までに」通知をする(43条1項)としていますが、「緊急を要する場合は、理事長は、理事会の承認を得て、5日間を下らない範囲において」招集期間を短縮できる(同条9項)としています。

1)総会の招集

すなわち、集会の招集は原則として2週間前(期間の伸長)ですが、危急の場合は5日前(期間の短縮)としているのですが、改正法では短縮はできなくなるので、標準管理規約をベースに規約を設定しているときはこの規定の見直しが必要となります。

次に、改正前の区分所有法では、軽微変更を除く共用部分の変更、規約の設定や変更、建物が大規模一部滅失したときの復旧、建替え、68条の団地規約の設定、二以上の特定建物の一括建替え承認決議に付す旨の決議をする場合には、議案に加えて議案の要領を示さなければならないとされていました。すなわち、上記以外の事項を決議するときは、議案の要領は示す必要はなかったのですが、改正法ではすべての決議事項について議案の要領を示すことになりました。

もっとも、現実には、総会の招集に際しては、ほとんどの事項で議案の要領は示されていると思われます。

2)総会の決議

①改正前の手続き

次に、総会の決議について考えてみましょう。区分所有法では集会の決議について「普通決議」と「特別多数決議」に分類することができます。各年の予算や事業計画、前年度の決算等、日常的に行われる事項についてはほとんどが普通決議事項となります。区分所有法では、通常は、集会において「区分所有者と議決権の過半数」で決議できるとしていますが、規約で別段の定めをすることができるとしています。たとえば、標準管理規約では、管理組合の総会は「議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない」(標準管理規約47条1項)としたうえで「出席組合員の過半数」で決議をする旨の定めとなっています(標準管理規約47条2項)。この点を表にすると次のようになります。

表1 総会における普通決議要件

 区分所有法の規定標準管理規約の定め
集会の定数議決権総数の半数以上
議決権過半数出席区分所有者の議決権の過半数
区分所有者過半数

以上のように、普通決議ついては、区分所有法の規定から比べると、標準管理規約では決議要件をかなり緩和していることがわかります。ちなみに、総会の定数についてですが、「書面又は代理人によって議決権行使をする者は、出席者とみなす」(標準管理規約47条6項)となっているので、委任状や議決権行使者を含めた議決権総数の半数以上の出席で総会は成立することになります。

次に、マンションの管理にとって重要な事項、あるいは区分所有者の負担が大きくなる内容については、区分所有法では、より多くの区分所有者の賛成を求めています。具体的には、特別決議事項と決議要件について、表2にまとめてみました。

表2 現行法の特別決議要件について

 区分所有者議決権
共用部分の変更4分の3(規約で過半数まで下げることができる)4分の3
規約の設定・変更・廃止4分の34分の3
管理組合法人の設立・解散4分の34分の3
義務違反者の使用禁止・競売及び占有者の引渡し請求4分の34分の3
大規模一部滅失の復旧4分の34分の3
建替え5分の45分の4

特別決議事項については、共用部分の変更について、区分所有者については、規約で決議要件を過半数まで引き下げることは可能ですが、それ以外は規約で別段の定めをおくことができません。

ところで、法改正前の区分所有法では、総会の決議については、「賛成かそれ以外」でカウントをしていました。すなわち、総会に出席せず、かつ委任状も議決権行使書も出さない区分所有者はもとより、所在不明で連絡がつかない区分所有者も総会の決議には「賛成しなかった」とされるため、特に共用部分の変更や規約の変更等、特別多数決議を要する場面ではこの点が大きなネックとなっていました。

この点について、区分所有者が20人(議決権も各1とします)のマンションで規約の変更をするための総会を開催したときに、所在のわからない区分所有者が1名、総会の欠席者が3名のマンション、反対者が2人いる場合で考えてみましょう(図1)。

②改正法による手続き

次に、改正法における手続きについてみてみましょう。総会の決議を考える場面で、改正法のポイントは大きく次の2点です。

ⅰ.所在不明区分所有者を総会の決議から除外する仕組みの創設

ⅱ.総会の普通決議事項は、出席した区分所有者とその議決権の過半数で決議する

ⅲ.特別決議事項(建替えや売却等、再生についての決議は除く)、区分所有者と議決権の過半数が出席した総会において、総会出席者と議決権の4分の3もしくは3分の2で決議する。

まず、ⅰについてですが、所在不明の区分所有者(法律では「所在等不明区分所有者」としています)については、利害関係人の申立てにより、裁判所が総会の決議から除外する旨の決定をすることができるようになります。もちろん、あらゆる手を使っても所在が分からない場合であることが大前提です。所在が分からない区分所有者については、前回述べたような、所有者不明専有部分管理人により対応をすることもできますが、総会の決議については所有者不明専有部分管理人を選任しなくても、所在等不明区分所有者の除外する決定を受けて対応することが可能となります。

なお、この仕組みは、建替えや建物敷地売却等、再生に関する決議にも適用されます。

次に、ⅱですが、こちらは集会の参加について特に定数を設けていません。あくまで出席者の過半数としているので、極論を言えば極めて少数の区分所有者しか出席しない集会でも決議をすることが可能となります。この点について、個人的な見解を述べると、現行の標準管理規約に準じた内容で規約を設定することが妥当ではないかと思います。

また、ⅲについてですが、区分所有者と議決権の過半数が出席する総会で、出席者の特別多数決割合で決議するとしています。すなわち、所在等不明区分所有者で決議から除外された者以外に、集会に欠席した区分所有者も分母から除いて決議をします。この件について、図1で示した事例についてみてみましょう(図2参照)

この場合は、所在等不明区分所有者1名と、総会の欠席者(総会に出席せず、委任状も議決権行使書も提出しない者)3名を決議の分母から除くので、16名中14名が賛成しているので決議は成立します。

 なお、特別決議の要件が3分の2となるケースがいくつかあります。

 第一は軽微変更を除く共用部分の変更です。具体的には次のいずれかに該当するときは、決議要件は4分の3となります。

  • 共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって、「他人の権利」や「法律上保護される利益」が侵害される場合や侵害されるおそれがある場合で、その瑕疵を除去するために必要な共用部分の変更
  • 高齢者や障害者等が移動するとき、又は施設の利用をする場合に、身体の負担を軽減することで移動や利用を行いやすくするため、或いは安全性を高めるために必要な共用部分の変更

第二は、建物が大規模一部滅失したときの復旧です。現行法ではこの場合の復旧決議は区分所有者と議決権の各4分の3となっていますが、改正法ではそれぞれが3分の2となります。

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2000年暮れから四半世紀以上にわたり数多くのマンション建替えや敷地売却の実務に携わった経験と、この過程を通じて知り得た管理や規約についての知見により、マンション再生はもとより管理について必要なコンサルティングをさせていただきます。

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