1)マンション関連の法律が改正された理由
わが国にマンションが誕生してから70年以上が経過するなかで、築年数が古く、かつ管理不全のマンションを中心に様々な問題が発生しています。なかでも2020年に行政代執行で解体された「廃墟マンション」(滋賀県野洲のマンション)については様々な媒体でも取り上げられました。このマンションは1972年の竣工だったので、解体された2020年時点でも築後48年に過ぎなかったのに建物が崩壊しつつありましたし、放置するとき周辺に危険を及ぼす可能性があったので公費解体の対象となったのですが、行政が建替えた解体費用の回収が困難であることが主要な問題と思われます。
図1 滋賀県野洲の廃墟マンション

また、神奈川県内で2020年にマンションの敷地(斜面地)が崩落して高校生が死亡する事故が発生しており、被害者の遺族がマンションの区分所有者と管理会社及び管理会社の担当従業員を相手取って裁判を提訴する事態が発生しました。この件については区分所有者と被害者遺族は和解しましたが、第一審の判決で、管理会社と担当従業員に対して損害賠償を命じる判決もおりています。
◇マンションと工作物責任
斜面崩落事件については、民法の「工作物責任(民法717条)」が問われたものとなります。建物や塀等の工作物が倒壊して、他人にケガをさせたり、あるいは他人の資産に被害を与えたりしたときは、その工作物の占有者や所有者に過失がない限りは、賠償をする責任があるとする規定です。外壁が剥落する危険性があるマンション等の区分所有者には、無視できない問題となります。
今回の法改正は、もともとは内閣府から法務省と国土交通省に対して、「マンションにおける所有者不明問題の整備」、「建替え決議要件の緩和」及び「被災マンションの復興の要件緩和」等の検討についての打診があったことが経緯です。しかしながら、ほぼ同じ時期に発生した上述の事件等を背景に、管理を適正化することによりマンションの長寿命化を図るとともに、建物の老朽化が進んだ場合の再生(建替えや売却等)を円滑にできる仕組みが必要と考えられたことは、この法改正に影響を与えているものと思われます。
こうしたなかで、「マンションの管理再生の円滑化等のための改正法案」が提出され、国会における審議の上で、5月23日の参議院本会議で可決成立しました。この法律は「建物の区分所有等に関する法律」(「区分所有法」)のほか、マンション管理の適正化の推進移管する法律(「管理法」)、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(「再生法」)及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(「被災マンション法」)を一括して改正するものです。
今回と次回で、この点について少し掘り下げてみましょう。
2)管理法改正のポイント
前述のように、今回の法改正のなかで、管理にかかる基本的なポイントは「マンションの長寿命化」です。コンクリート造等、堅牢な構造で作られているマンションも、適正な管理をしなければ建物の本来の耐用年数よりもはるかに短い期間で老朽化が進行してしまいます。そのため2020年に管理法が改正され、「管理計画認定制度」がスタートしていますが、この制度は、既存のマンションを対象とした制度でした。
マンションの管理の質を向上するのであれば、新築時点から適正な管理をめざすべきであるため、改正法では新築時から管理計画認定制度を受けることができるようにしています。
次に、マンションの管理をする際に、近年は「外部管理者方式」を採用するケースが増えているのですが、実際の外部管理者は管理会社が担い手となるケースが多くなっています。マンションの管理は専門性が高い業務ですから、管理のプロがその業務を担うことには特段の問題はありません。ただし、管理者である管理会社が修繕工事等を自社に発注する事案もあるのですが、このときに、相場よりも割高で工事の発注する事案が発生しており、主としてこの点が問題視されています。
そこで、管理会社が外部管理者となるときに自己取引となるような場合について、区分所有者への事前説明の義務化等の規定が追加されています。
そのほか、マンション管理適正化支援法人に関する規定が新設されています。同法人は、管理組合や区分所有者に対するマンション管理の適正化を図るための支援、都道府県等が行うマンション管理適正化推進計画の作成や変更に際しての必要な協力等、マンション管理の適正化の推進に資する業務を行うことを目的として、都道府県知事が登録する法人となります。
3) マンション管理についての区分所有法改正のポイント
今回の区分所有法の改正については、「管理」に関する面と「再生」に関する面の二つの側面から理解する必要があります。
今回は、管理に関する内容についてお話をさせていただきます。
まず、改正法においては、区分所有者はマンションの「管理が適切かつ円滑に行われるように、相互に協力しなければならない」という条項を新しく置いています(5条2)。このことを受けて、区分所有者で管理に協力をしないときには、権利の行使について一定の制約を受けるようになっています。具体的には次のような点がその内容と考えてよいでしょう。
- 集会(以下では、「総会」と言います)の決議に係る出席者多数による決議(17条1項、31条、39条、47条、58条、61条5項)
- 所在等不明区分所有者の除外(38条の2)
- 所有者不明専有部分管理命令(46条の2から7)
- 管理不全専有部分管理命令(46条の8から46条の12)
- 管理不全共用部分管理命令(46条の13から46条の14)
このなかで、①と②については少し詳しい説明が必要なので、次回で説明をさせていただくとして、③から④についてみてみましょう。
今回の法改正の目的であるマンションの長寿命化を図るためには、管理を適正に行うことが不可欠です。この場合における管理ですが、個々の住戸(専有部分)は区分所有者が共用部分は区分所有者全員で対応する必要があります。しかしながら、「ゴミ屋敷」に代表されるように、個々の専有部分の管理を放置して周りに迷惑をかける人もいますし、区分所有者全員が管理に無関心で、さきほどのような廃墟マンションになりかかっているケースもあります。
そこで専有部分が管理不全で周りに迷惑をかけるときや共用部分の管理に支障をきたすような場合は、利害関係人が裁判所に申し出て、第三者(=管理不全専有部分管理人)に管理をさせる仕組みが新設されましたし、全体が適切に管理されない場合も、利害関係人が裁判所に申し出ることにより、同じく第三者(=管理不全共用部分管理人)が共用部分を管理できる仕組みが誕生しました。
そのほか、所有者が誰だかわからない専有部分については、同じく利害関係者が裁判所に申し出ることにより、所有者不明専有部分管理人を選任できる仕組みも新設されました。
4)管理者の権限等
マンション管理についての二つ目のポイントですが、「管理者の権限」に関するもので、具体的には、共用部分についての保険金の請求や損賠賠償請求に関するものです。たとえば、建物の施工などに問題があり、施工者やマンションの売主などに損害賠償請求をする場面がありますが、このとき、マンションの管理者は区分所有者を代理して損賠賠償請求権を行使することができます。ところで、この場合における問題点として、損害賠償請求権を行使した時点において、マンション購入時の区分所有者全員がそのままマンションを区分所有していればよいのですが、第三者にマンションを売却しているケースでは、マンションの売却時点で損害賠償請求権も含めて売却している場合を除くと、最初の購入者に権利があると考えられています。しかしながら、その人物は損害賠償請求権の行使時点では区分所有者ではないので、管理者はその者の代理権は有しないため、実際の損阿木賠償の請求について問題が生じた判決があります。
そこで、改正法では、保険金請求権や損害賠償請求権及び不当利得返還請求権については、「保険金等の請求権を有する者を代理する」としています。なお、この場合における「保険金等の請求権を有する者」とは、区分所有者のほか区分所有者であった者であるとし、また区分所有者であった者については、別段の意思表示(損害賠償等の請求をしない旨の意思表示)をした者を除くとしています。
そのほか、規約が電磁的記録で作られている場合の規約の保管や閲覧についての規定が新設されたほか、集会の招集について、少なくとも集会の一週間前に発するとされている規定について、現行法では、「規約で伸縮できる」とされていたものを「規約で伸長できる。」に変更されています。標準管理規約では、総会の招集は2週間前とする旨の規定となっていますが、危急時には5日前に招集通知を発することができるとされているので、標準管理規約をベースに規約を作成しているときは、5日前に招集できる旨の規定は削除する必要があります。
最後に、管理組合法人が区分所有権等を購入できる旨の規定も新設されています。
マンション再生・管理についてお悩みの方
2000年暮れから四半世紀以上にわたり数多くのマンション建替えや敷地売却の実務に携わった経験と、この過程を通じて知り得た管理や規約についての知見により、マンション再生はもとより管理について必要なコンサルティングをさせていただきます。