1.建物を利用するときに、どのような権利があるか
私たちが「住まい」として、あるいは「事業目的」等で建物を利用するとき、土地や建物の権利という観点から考えると、下表に示すように大きく3つの方向性があります。
| 土地建物の利用形態 | 建物の権利 | 土地の権利 |
| 借家(建物所有者から建物を借り受ける) | 建物の貸主 | 建物の貸主(*1) |
| 借地(土地は地主から借り、建物は所有する) | 建物利用者(*2) | 土地所有者 |
| 所有(土地も建物も所有する) | 建物利用者(*2) | 建物利用者(*2) |
*1 建物の貸主が土地を借りている場合もある
*2 建物利用者が建物所有者の家族等である場合がある
*1や*2でも示したように、たとえば借地権の場合でも、借地権者(建物所有者)の子供が建物を利用する場合もありますし、土地や建物を所有しているときでも、同じような場面も考えられますが、ここでは、借地権は建物を利用する人物等が建物のみ所有する権利であり、所有権は建物利用者が土地も建物も所有している権利であると考えることとします。
こうしたなかで、「建物を大家さんから借りる」(借家)、或いは「土地も建物も所有する」(所有)ことの必要性はよくわかるのですが、借家でも所有でもなく「建物だけ所有して土地は借りる」(借地)を選択する必要はどこにあるのでしょうか。今回は、土地を借り受ける側の立場から、この点について考えてみたいと思います。
2.住宅を建てるために土地を借りる理由
◇理由1 建築費が高騰する中で持家を取得しやすくなる
昨今は建物の建築費も高いので、土地を購入したうえで建物を建築すると所有権の取得費だけでかなりの負担が必要となります。特に人気の立地等では土地価格が高くなるので、この点は所有を考えるときの大きなネックになります。
なお、借地権のうち普通借地権を設定するときは、大都市部では地価の60%~70%程度の権利金を収受することが慣習化されているので、土地を借りるとしても相当な負担が必要となります。こうしたなか期間満了で終了する定期借地権を設定するときはそこまでの負担が必要でないケースがほとんどです。
定期借地権を設定するときも、借地人は一時金(注)の支払いが必要となりますが、土地の購入や普通借地権における権利金の負担よりも定期借地権設定時に収受する一時金の差額は大きくなります。そのため、この差額は建物の充実や子供の教育費等、他の用途で利用できるので、こうした考え方を合理的であると考える人にとって定期借地権は魅力あるものとなるでしょう。
この件について設例で考えてみましょう。下図のケースでは、所有権で住宅を取得すると7000万円の負担が必要となりますが、定期借地権の場合は4000万円で済みます。もちろん、定期借地権を設定すると地代の負担は必要となりますが、設例のようなケースではこの点を考えても定期借地権にメリットを感じる人は少なくないでしょう。
設例:地価が4000万円、建物価格が3000万円とした場合における所有権住宅と定期借地権住宅の比較(なお、定期借地権設定時には地価の25%程度の一時金を支払うこととする)

◇理由2 地価が安い場所では土地を持つことがリスクになる
バブル期までは、地価は全国的に上昇する傾向がありましたが、昨今では、大都市部ではバブル期を超える地価となっている一方で、地方都市になると大都市部の地価高騰の影響がほとんど見られないケースも少なくありません(令和時代の不動産相続のコラム1を参照ください。)。平成不況の最中には、不動産を「負動産」と揶揄する人もいましたが、地価が上がらないどころか下落を続けるような地域では、不動産を所有することに疑問を持つ人も増えていますし、そうした地区において子供に不動産を承継させることの可否については議論のあるところです。
しかしながら、仕事などの関係で、地価が上昇する場所であるか否かにかかわらず、住宅が必要な人は一定数存在します。そうなると、地価の上昇が見込めない地区で住宅を所有するのだとすれば、定期借地権で土地を借受けて、土地上の建物を所有するという考え方は極めて合理的ではないでしょうか。
このようなことを考えると、理由1で示したように、「定期借地権だからリーズナブルな金額で住宅を所有できる」ことに加えて、「子供に土地を承継させなくて済む(期間満了で借地契約が終了する)」ケースも、定期借地権付き住宅を推奨できる一つの考え方であると思います。
3.事業目的で土地を借りる理由
次に、事業目的で土地を借りる場合について考えてみたいと思います。
バブル期までは、事業者の信用を考えるうえで、「その事業者が所有する資産」は極めて重要な要素でした。たとえば金融機関が事業資金を融資するときは、事業者の収益性はもとより、事業者の所有する土地は「担保」の観点からも重要視される傾向にありました。
今日でも、事業者の信用を図るうえではその事業者が所有する資産は重要であることには変わりませんが、一方で「事業者の株価」を考えるときは、資産価値よりも収益性が重要視されるようになっています。
すなわち、所有する資産が多いにもかかわらず収益性が高くない企業は、株式市場では評価されません。東京証券取引所が、上場企業に対して、PBR一倍割れを是正するように勧告をしたのは最近のことですが、現時点でもPBR一倍割れの企業が多いことからもこの傾向は理解できるのではないでしょうか。
このようなことから、上場企業を中心にして、不要不急の資産は所有しないことが一般的になっています。こうした傾向のなかで、たとえば事業所や店舗を出店するときも、建物を借りるか、あるいは土地を借りて建物のみを所有する方向に舵を切っているケースが増えています。
現実に、地方の郊外部になると、地価の20%近い年額地代を支払っている事例もあります。すなわち、5年間で土地を購入できる状態ですが、将来、その店舗や事務所から撤退するような場面を考えると、現状で一定の収益が上がり、地代も問題なく支払えるのであれば、むしろ土地は所有しない方が良いという選択をしているのだと思います。
4.まとめ
人口が増え続ける社会では、不動産の所有を希望する人も企業も多くなる一方で、国土が限られた面積であるわが国では、特に都市部においては土地の需要に対して供給が追い付かなかったため、結果として地価の上昇が続いていました。しかしながら、人口の減少が始まり、また相対的に若年層の人口は更に減少する世の中では、土地に対する価値観も大きく変わってきています。
そうしたなかで、土地の所有を絶対視するのではなく、「所有と利用の選択肢がある」状況は健全と考えてよいのではないでしょうか。
こうしたことから、今後は定期借地権のニーズはますます高まるのではないかと考えています。ただし、定期借地権にも課題はあるので、実務の中で課題を洗い出しながら、この制度をより使い勝手の良いものにする必要はあると考えています。
借地活用・定期借地活用を検討の方
借地上での建物の建替え、借地権や底地の売却、新規の借地権の設定などに際しては、様々な視点からの検討が必要です。借地実務に精通し、定期借地実務では制度が始まったときからこの問題に関わるとともに、これらの問題について多くの著作もあるので、理論と実務と二つの観点から適切なアドバイスをさせていただきます。