1)被災マンション法の概要と制定
既存の区分所有法は、区分所有建物と附属施設及びその敷地の管理等について定めたものとなっています(区分所有法3条)。そのため、災害等によりマンションが滅失(建物としての機能を失なった状態)してしまうと、区分所有法が適用されなくなります(区分所有建物がなくなるので、区分所有法は適用されないという理屈です。)。
そのため、建物が滅失すると、他に特別法がない限りは民法の原則、すなわち建物の再建や売却を進めるときは、区分所有者の全員同意が必要となります。そもそも区分所有者の全員同意で建替えをすることが困難であるため建替え決議の制度があるのに、建物が滅失するという非常時に再建等に際して全員同意を求めることは極めて酷な話と思われます。
さて、この点が現実に問題となったのは兵庫県南部地震のときでした。滅失したマンションが複数発生した中で、発災から2月経過した1995年3月に被災マンション法が制定され、政令で定めた災害により建物が滅失したときは、区分所有者だった者(以下「敷地共有者等」といいます。)による集会において、敷地持分価格の5分の4で再建の決議ができることとなりました。
図1 兵庫県南部地震で滅失したマンションの例(1階部分がつ潰れた状態)

写真:戎正晴弁護士より提供(阪神淡路地震におけるマンション)
なお、この地震では、滅失したマンション以外に、一部滅失したマンションの中でも復旧ではなく「建替え」を選択したマンションがあったため、最終的には100棟を超える建替え事例が発生していますが、この復興に際して決議後に契約で建替えや再建を進めるうえで様々な問題が生じたことが、2002年の円滑化法の制定につながったといわれています。
2)被災マンション法の改正
兵庫県南部地震から16年後の2011年、東日本大震災が発生し、仙台市内のマンションが大きな被害を受けることとなりました。兵庫県南部地震の際は、滅失したマンションを中心にして「再建」や「建替え」のニーズが大きかったのですが、東日本大震災の被災マンションでは、建替えではなく、「売却」のニーズが発生しています。「お金をかけて建替えるよりも、公費解体で建物を解体したうえで土地を売却する方が良い」と判断したマンションが出たと考えてよいでしょう。
以上の理由から、2013年の被災マンション法の改正において、政令で指定された災害で滅失したマンションについて、再建以外に「売却」の選択肢が加わりました。また、滅失したマンションだけでなく、大規模一部滅失したマンションについても「建物敷地売却」、「建物取壊し敷地売却」および「建物取壊し」についての決議も新設されました。ちなみに、建物取壊し決議をしたマンションについては、その後は滅失したマンションについての規定が適用されます。
そのほか、従来の被災マンション法には、団地の一部もしくは全部が滅失したときの規定がなかったので、これらの場合について対応する規定も設けられています。
なお、被災マンション法で「売却」の選択肢が登場したことが、円滑化法のマンション敷地売却決議の創設にも影響を与えたといわれています。
3)現行(令和7年時点)の被災マンション法にはどのような課題があるか
近年、わが国では大規模な災害が頻発するなかで、マンションが被災する可能性も十分に考えられます。このような事態が生じたときに、被災マンションの復興を考えるうえで、この法律の存在価値はおおきなものと考えてよいでしょう。
ただし、実務家の観点から考えると、課題もあります。
第一は、被災マンション法で再建や売却の決議は可能なのですが、被災マンション法と円滑化法が紐づいていないため、決議後は円滑化法の手続きを利用できない点です。もちろん、一部滅失したマンションで建替え決議をしたときは、円滑化法の手続きは利用できるのですが、被災マンション法の再建決議や売却決議をしたあとは、円滑化法の手続きが利用できません。
第二の課題は、期間に関するものです。
被災マンション法の適用については期間の定めがあります。すなわち、滅失したときは政令の指定から3年間、大規模一部したときは政令の指定から1年間が被災マンション法の適用期限となっているのですが、特に大規模災害が発生すると、この期間内で決議まで進まないマンションもあると思われます。そのため、この期間が延長されることが望まれていました。
課題の第三は、仕組みが非常にわかりにくいことです。
建物の一部滅失までは区分所有法で復旧や建替えが可能なのですが、大規模一部滅失をしたときは被災マンション法で建物敷地売却等の手続きを利用することができ、また建物が滅失したときは被災マンション法の手続きによることになるのですが、この点が非常にわかりにくい状態となっています(図2を参照)
図2 令和7年時点における被災マンションの復興に係る法律と手続きの内容

四番目の課題として、政令の指定がないと被災マンション法の適用をすることができない点です。被災マンション法は法務省所管の法律ですが、法務省はマンションの所管官庁ではないため、被災マンションの状況が伝わりにくいのではないかと思われる点なども実務面では危惧されるところではないでしょうか。
4)まとめ
被災マンション法という通称から、被災したマンションは全て被災マンション法の手続きで復旧や再建等が行われると誤解されている可能性があります。しかしながら、実際は区分所有法を補完する法律であるため、区分所有法61条や62条の規定を併せて被災マンション法を理解する必要があります。
なお、改正法ではこの点がかなりスッキリしたのではないかと思われます。
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2000年暮れから四半世紀以上にわたり数多くのマンション建替えや敷地売却の実務に携わった経験と、この過程を通じて知り得た管理や規約についての知見により、マンション再生はもとより管理について必要なコンサルティングをさせていただきます。