1)区分所有法とは

区分所有法とは、マンションを含む区分所有建物と附属施設及び敷地の管理等に関して定めた法律で、民法の特別法です。今年(2025年)の5月31日に、区分所有法を含む、マンションの管理と再生の円滑化に関する法律の改正があったので、この改正法について説明をするに際して、まずは、区分所有法について簡単に解説をさせていただきます。

◇日本のマンションの始まりは?

わが国の「分譲マンション」の第一号は、1953年に分譲された宮益坂ビルディングと言われています。同マンションは東京都住宅供給公社の母体となった東京都住宅協会が分譲したもので、店舗、事務所と住宅が混在した、複合用途型のマンションでした。その後、1955年には日本住宅公団が設立されるとともに、東京都住宅供給公社等も設立され、1956年ごろから団地型を中心としたマンションが供給されるようになりました。

また、1956年には、民間分譲マンションの第一号といわれる四谷コープラスも分譲されています。

さて、マンションは、専有部分(各住戸)と共用部分で構成される不動産です。共用部分とは、廊下や階段、エレベータのほか、建物の構造躯体のことであり、これらは原則として区分所有者全員で共有しているため、その維持管理は共有者で行う必要があります(図1参照)。一方で専有部分はそれぞれの区分所有者の持ち物ですから、この部分については、各区分所有者で維持管理をすることになります。

図1 マンションについての権利の概要

◇マンションの維持管理に合意形成が必要な理由

ところで、区分所有者全員の共有物である建物の維持管理は具体的にはどのように進めればよいのでしょうか。この点について、民法の規定を見てみましょう。

まず、共有物の変更について、251条で規定されています。251条1項では、共有物の変更は、共有者全員の同意が必要であるとしています。

区分所有法251条

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

次に、共有物の管理は、252条に規定されています。管理については、共有者の持分価格の過半数で決定できる旨が252条1項で規定されています。

区分所有法252条

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

◇区分所有法制定時の内容について

さて、マンションは数十人から、規模が大きなものになると数百人の共有物となります。一方で、民法の共有についての規定は、そもそもマンションのような巨大な共有物を想定して作られてものではありません。その後も、マンションの数が増えるなかで、民法の共有に関する規定だけでは対応が難しくなるなかで、マンションという特殊な共有物の管理について「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます。)が1962年に定められることとなりました

この法律の中で、マンションをはじめとする区分所有建物(以下、区分所有建物を総称してマンション等と言います)について、次のようなことが定められていました。

ⅰ.マンション等は管理者が管理する

ⅱ.区分所有者全員の同意により規約の設定、変更ができる(規約で別段の定めをすることができる)

ⅲ.共用部分の変更(以下「軽微変更」といいます)改良を目的として多額の費用を要しないもの)は共有者の持分の4分の3以上で決することができる(規約で別段の定めを置くことができる。)

ⅳ.上記ⅲ以外の共用部分の変更は全員同意が必要である(規約で別段の定めを置くことができる。)

ⅴ.共用部分の管理については共有者の持分価格の過半数で決することができる(規約で別段の定めを置くことができる)

さて、区分所有法について詳しくない方は、以上の説明の中で「マンションは管理者が管理をする」という点に違和感を覚えるかもしれません。多くのマンションでは、管理組合が構成され、管理組合の理事長が中心となった理事会でマンションを管理していますが、区分所有法でいうところの「管理者」を選んだという認識はないためです。

実は、区分所有法には、「管理組合法人」についての規定はありますが、法人格を持たない「管理組合」についての規定は置かれていません。しかも、現実に管理組合法人が設立されているマンションは、全体の1割強程度ですから、世の中の多くのマンションは、区分所有法が想定していない管理組合による管理をされていることになります。

それでは、なぜ、法人格のない管理組合がマンションを管理できているのでしょうか。

結論から言えば、マンションの規約で、管理組合や理事会とその活動についての定めがあり、さらに「理事長は区分所有法の管理者である」旨が規定されていることによります。

区分所有法の立法者は、管理者管理方式を想定して法律を作っていたと思われますが、実務においては、以上のような形で管理組合による管理が主流となっていました。

2)区分所有法の1983年改正について

その後、都市部を中心にマンションは急増する中で様々な問題も発生しましたし、大規模なマンションも増えてきました。そのほか、建物の老朽化による建替えの検討が必要な場面もでてくること等が想定されたため、1983年に区分所有法の大改正が行われ、次のようなことが新設若しくは改正されています。

ⅰ.規約敷地の規定の新設

ⅱ.専有部分と敷地利用権が一体であるとする原則の新設

ⅲ.区分所有者の団体についての規定の新設

ⅳ.一部共用部分の管理についての明確化

ⅴ.共用部分の管理と軽微変更については、集会の普通決議(区分所有者と議決権の過半数で決議)に、また、軽微変更以外の変更は集会で区分所有者と議決権の4分の3決議事項に変更された。なお、軽微変更の決議要件は規約で別段の定めをすることができるが、軽微変更以外は規約で区分所有者については過半数まで減じることができるとされた。

ⅵ.規約の設定は集会において、区分所有者と議決権の各4分の3決議となった。

ⅶ.管理組合法人の規定が新設された。

ⅷ.区分所有者の義務を定めるとともに、義務違反者に対する措置が新設された。

ⅷ.復旧決議及び建替え決議の規定が新設された。

ⅸ.団地についての規定が整備された。

前述のように、当初の区分所有法は、「管理者管理方式」がベースとなっていましたが、実際にはマンションは管理組合が主体となり管理をしているケースが多くなっていたため、1983年改正では、マンションを管理する団体が、集会の決議を経て管理をする方向に舵が切られています。区分所有者の団体や管理組合法人の規定が新設されたほか、共用部分に関する事項や規約に関する事項等集会の決議について規定されることで、その重要性が明確となりました。

また、マンションは原則として敷地利用権と区分所有権が一体として取引されていますが、この規定が誕生したのも1983年改正となります。

3)区分所有法の2002年改正について

1983年改正から19年後の2002年にも区分所有法が改正されています。この頃には、最初期に分譲されたマンションは築後60年を迎えるほか、マンションの大量供給が始まった1970年代に竣工されたマンションが築40年を超え始めていたため、マンションの再生が社会問題となりつつある時期でした。

そのほか、インターネットが普及する中で、IT化の検討も必要となる等、世の中の動きに対応する必要が生じたことが、この時の法改正の大きな要因でした。

具体的には以下のような点についての改正がされています。

 ⅰ.共用部分の変更について、軽微変更の要件が「形状や効用に著しい変更がない場合」とされた(価格要件が廃止された)

 ⅱ.管理者の代理権及び当事者適格の要件が見直され、共用部分等について生じた損害賠償や受領についての代理権や訴訟追行権が管理者に認められた

 ⅲ.規約において、区分所有者の衡平性を保つべきことが追加された。

 ⅳ.管理組合法人設立についての人数要件が廃止された。

 ⅴ.規約や議事録、集会決議の電子化に関する規定が追加された

 ⅵ.復旧に関する規定が一部追加された

 ⅶ.建替え決議の招集について、費用の過分性要件が削除された

 ⅷ.団地の建替えについての規定が新設された。

以上のように、マンションを取り巻く環境のほか、マンションそのものも時代とともに

変化していくなかで、区分所有法も改正されて今日に至っています。なお、区分所有法の制定が1962年、最初の改定が1983年、次の改定が2002年と、概ね20年毎に法改正がされていますが、2002年から23年後の2025年にまた改正がされています。

「マンションの終活」について もっと詳しく知りたい方はこちら

マンション再生・管理についてお悩みの方

2000年暮れから四半世紀以上にわたり数多くのマンション建替えや敷地売却の実務に携わった経験と、この過程を通じて知り得た管理や規約についての知見により、マンション再生はもとより管理について必要なコンサルティングをさせていただきます。

コラム一覧へ